糖尿病の神経障害(糖尿病性神経障害)とは、高血糖状態が長期間続くことで、全身の神経がダメージを受ける合併症です。糖尿病の三大合併症のひとつであり、特に足のしびれや痛み、自律神経の不調など、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
🧠 原因とメカニズム
糖尿病性神経障害は、以下のような要因で神経細胞が傷つくことで起こります:
- 高血糖による代謝異常:神経細胞内に有害物質(ソルビトールなど)が蓄積し、細胞機能が低下
- 毛細血管の障害:神経に栄養を届ける血管が傷つき、血流不足により神経が酸欠状態に
- 酸化ストレス・炎症反応:高血糖によって活性酸素が増え、神経組織が攻撃される
- 動脈硬化の進行:神経への血流がさらに悪化し、障害が進行
🔍 主な症状と分類
糖尿病性神経障害は、感覚神経・運動神経・自律神経のいずれにも影響を及ぼします。
✅ 感覚神経障害(末梢神経障害)
- 足のしびれ・ピリピリした痛み
- 足の裏に紙が貼りついているような違和感
- 触れても感覚が鈍い(ガラス片を踏んでも気づかない)
- 夜間に痛みが強くなることが多い
✅ 自律神経障害
- 胃腸の不調(便秘・下痢・胃もたれ)
- 排尿障害・残尿感・頻尿・勃起障害
- 発汗異常(汗をかかない・乾燥肌)
- 起立性低血圧(立ちくらみ)
- 無自覚性低血糖(低血糖症状が出にくい)
✅ 単神経障害(局所的な神経麻痺)
- 顔面神経麻痺
- 眼球運動障害(物が二重に見える)
- 多くは自然に回復するが、糖尿病とは無関係に突然発症することも
🩺 検査と診断
- アキレス腱反射検査:腱反射の有無を確認
- モノフィラメント検査:足底の感覚を確認
- 振動覚検査:振動を感じる時間を測定
- 心拍変動検査:自律神経の働きを評価
- 神経伝導検査:神経の伝達速度を測定
💊 治療と予防
✅ 基本は血糖コントロール
- HbA1cを7.0%未満に保つことが目標
- 急激な血糖改善で痛みが出ることもあるため、医師の指導のもとで調整
✅ 症状に応じた薬物療法
- 有痛性神経障害:プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチンなど
- 代謝改善薬:アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット)
- 自律神経障害:症状に応じて消化管・排尿・血圧などの調整薬を使用
✅ フットケアの徹底
- 足の観察・保湿・清潔管理
- 感覚が鈍くなるため、傷や感染に気づきにくく、壊疽のリスクあり
- 足に合った靴選びも重要
✅ まとめ:神経障害は“静かに進行する”糖尿病のサイン
糖尿病性神経障害は、初期には軽い違和感から始まり、放置すると生活の質を大きく損なう合併症です。しびれ・痛み・胃腸の不調・排尿障害などの症状がある場合は、早めに医師へ相談し、検査と対策を始めることが大切です。血糖コントロールと生活習慣の見直しが、進行予防の鍵となります。